技術情報屋上緑化設計上の注意点
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屋上緑化用防水に求められる主な性能は4つあります。水密性、耐荷重性、耐根性、そして最も重要な防水層の耐久性。一旦緑化すると、防水層の点検・修理は大変な時間と費用を必要とします。しかし、耐久性が高ければ、点検・修理までの時間が長くなり、結果的に費用の節約に繋がるのです。田島ルーフィングのアスファルト防水は、これまでの実績と現場から採取したデータに基づいて耐用年数を割り出し、安全な屋上緑化を実現します。
日本建築学会 第2回防水シンポジウム資料集P226 ~ P228 より抜粋
緑化用防水層では植栽がなされた後の防水層の点検、修理は困難である。そのことを前提に考えると、ひとたび防水を施したら手を加えず長時間、防水機能を保ち続けることが期待される。…中略…
a)庭園・菜園型防水層
大型の樹木の植栽、あるいは深い土壌層を必要とする本格庭園や菜園ではその後防水層の点検、補修はほとんど不可能と考えるべきである。従って、特に充分な耐久性、50年程度のライフの期待される防水層とする必要がある。
b)薄層省管理型防水層
最近の傾向として軽微な植栽で緑化を行う例が増えている。この場合は土壌層もさほど厚くならず、万が一漏水事故が発生したとしても、その後のある程度の改修は可能である。そのため通常の屋根防水で期待される20年程度の耐久性が必要と考えた。…後略…
様々な防水、その性能と特徴
アスファルト防水最適
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耐用年数
20〜60年
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耐荷重
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耐根性
耐用年数が長く、耐久性・水密性・耐荷重性に優れている。耐根層は別途必要。最も実績の多い工法。
塩ビシート防水
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耐用年数
10〜20年
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耐荷重
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耐根性
耐摩耗性があり、露出防水の歩行用として用いられることがある。
ゴムシート防水
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耐用年数
10〜15年
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耐荷重
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耐根性
軽量で柔軟性を有しているためS造ALCなど露出非歩行用によく用いられる。
ウレタン塗膜防水
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耐用年数
10〜13年
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耐荷重
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耐根性
施工時は液状なので、施工場所が複雑でもシームレスな仕上がり。湿潤状態が続くと劣化が進行することがある。
FRP防水
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耐用年数
10〜15年
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耐荷重
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耐根性
施工時間が短く、仕上がりも美しい。材質が硬いため、建物の動きには弱い。
防水保護材について
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屋上緑化を行う場合、施工時やメンテナンス、植替えの際に、スコップやはさみ、カッターなどを使用するケースが多く見受けられます。防水層が存在する屋上では、それらの工具を落とすなどして、防水層が痛まないように注意することはもちろんですが、設計や施工の段階で防水保護層を設置し、防水層が損傷する可能性をできる限り減少させておくことも、安全に施工を行ううえで有効です。防水層を保護する部材を右に列記します。
保護コンクリート保護モルタル
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厚60~80㎜を現場にて打設。断熱材の真上で打設する際は溶接金網を挿入することもあります。コンクリートの伸縮を吸収するために、3mおきに伸縮目地を設置します。
保護モルタル
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厚20~30㎜を現場にて打設。ひび割れが発生する可能性が大きい。
FDマット
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厚5㎜の合成繊維製リサイクルマット。屋上緑化システムFD-LP仕様には標準装備。長時間屋外暴露は不可。
バリキャップ
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厚6㎜のアスファルト製成型板(500×1000)。アスファルト防水用の保護板として有効。一時的であれば重機の走行も可能。
屋上が受ける雨水などを地上に流す道の出入口が排水口。その出入口が狭くなれば、水は流れにくく、完全に詰まってしまえば、水は貯まっていくばかり。屋上が水に浸かりっぱなしでは、植物の生育に悪影響を及ぼし、当然ながら、建物にも良いはずはありません。水害事故や植物の生育不良を防ぐためにも、排水口周りの対策をしっかり行うことが大切です。
排水口の目詰まりによる排水阻害対策
FDフィルターの透水性能
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屋上緑化にとって、植物の生育に必要な水にまつわる性能は常に高いクオリティが求められます。流水量の安定性に影響する透水性能もその1つ。客土、給水、乾燥のサイクルを長期間付与し、透水性能を実験したところ、湿潤、乾燥のサイクルを経ても、FDフィルターは目詰まりすることなく、安定した透水性能を示しました。
植栽排水口の目詰まり対策
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植栽排水口の内側にDOパイプを取り付け、FDフィルターを設置する。
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植栽排水口の内側にDOパイプを取り付け、FDフィルターを設置する。
排水計画
屋上緑化を計画するにあたり、該当屋根の排水計画を立てることが重要です。
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〈注意点〉
- 屋根の排水勾配は、1/100~1/50程度とする。
- ルーフドレンの個数は、隣接屋根や壁の面積を考慮した個数とする。
- 万一のドレンの詰まりを想定し、最低でも2個は設置。必要に応じて、オーバーフロー管の設置も検討する。
- 上階からの排水が植栽帯を通らないような植栽配置とする。
- 植栽位置は壁面に隣接させないようにする。
ルーフドレンの個数の求め方
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ルーフドレンの個数は、雨水排水用の管の径、屋根面積、時間当たりの降雨量予測から求めます。通常屋根面積の計算は、A + Bとされていますが、屋上緑化をする場合は以下の注意が必要です。
〈対策〉
高層ビルなどの大きな壁面に接するルーフドレンの許容最大屋根面積の計算をするときは、安全のため、壁面積の1/2を加算すること。
A+B+C×1/2=屋根面積
よくいただくご質問
- Q
屋上に土を入れ植物を植えたら、雨漏りの原因になりませんか?
- A
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防水層にとって屋上緑化は、紫外線による劣化を防いでくれるものですが、逆に水分が滞留したり植物の根が防水層を貫通したりして、防水層に悪影響を及ぼす可能性もあります。
屋上緑化を雨漏りの原因としないために、次のような注意が必要です。- 屋上緑化に適した防水層の選定
- 適切な耐根層の設置
- 適切な防水保護層の設置
- 適切な排水経路をとり、水はけをよくする
- ルーフドレンなどの点検・清掃を定期的に行う
- Q
風で土などが飛んでいきませんか?
- A
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屋上は地上部と比べると風が強く、土壌などが飛散したり、樹木が風倒する 可能性が高くなります。その対策としては、次のような方法が考えられます。
屋上の風よけ策
- パラペット(屋上の外側立上り手すり壁)を植栽より高くする。
- 強化ガラスの壁や防風ネットなどを設置する。
- 植栽を芝や地被植物など風の影響を受けにくいものにする。
※ラティスなどを手すりに取り付けると、手すりの風倒につながり危険です。
土壌の飛散防止策
- 自動灌水装置などにより、常時湿潤状態にしておく。
- マルチング材により土壌をカバーする。
※マルチング(mulching)とは、火山砂利やバークチップなどで、土壌の表面を覆い、飛散・乾燥などを防止することをいいます。
土壌の飛散を完全に止めることは困難です。多少の土壌の飛散は見込んでおき、定期的なメンテナンスで補填していくことが重要です。
樹木の風倒防止策
屋上緑化の場合は、土壌厚が充分でないことが多く、公園などでよく利用される樹木支柱(八つ掛け支柱など)は使用できません。地中で根鉢を固定する地下支柱などを利用するのがよいでしょう。
溶接金網などの併用や、地下支柱を連結する方法もあります。-
風荷重計算について
風荷重とは、風により発生する力で、屋上面を引き上げる力のことをいいます。屋上緑化を行う場合、屋上面にかかる風荷重を考慮した計画を立てる必要があります。例えば、東京都内の5階建ての屋上には、およそ300kg/m²の風荷重を見込まなければなりません。つまり、300kg/m²以上の力で固定しなければ、理論上風により持ち上げられることになります。風荷重は、対象建物の所在地、階高などにより計算で算出できます。
算出方法についてお知りになりたい方はお問い合せください。
- Q
大雨で土壌が流れ出ることはありませんか?
- A
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緑化計画とともに、植栽域の排水穴の大きさや個数、排水経路など、排水計画をきちんと立てておくことが必要です。
- Q
過去のクレームにはどのようなものがありましたか?
- A
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過去のクレームの原因と対策をまとめると、下表のようになります。
項目 クレーム内容 現象 考えられる原因 対策 防水関連 防水層損傷 漏水 他種工事でスコップやカッターなどによる防水層破損 保護層設置 オーバーフローによる漏水 漏水 経年による土壌固結・ルーフドレンの目詰まり・防水層の位置不良 納まり
排水計画植物根による防水層の貫通 漏水 耐根層の不設置・不十分な耐根層 適切な耐根層 排水関連 排水勾配不良による雨水の滞留→生育不良 生育不良 設計時の勾配不良・施工時の勾配不良 適切勾配設置 上階からの排水による土壌流出 漏水・生育不足 排水計画不良 排水計画 灌水 灌水パイプの切断 植物の枯死 植替え作業時の損傷 施工管理 自動灌水装置の不作動 植物の枯死 管理時の操作不良 管理の徹底 自動灌水装置の設定ミス 水道料金の過剰 管理時の操作不良 管理の徹底 植物 生育不良 植物選定 緑化計画 その他 病害虫 生育不良 虫の大量発生 管理の徹底 クレームの原因は様々ですが、多くの場合、事前の打ち合わせを充分に行っていれば防げるものです。設計の時点から、緑化計画だけでなく、納まりや排水計画などをキチンと立案しておくことが必要です。
- Q
夏の遮熱効果のほか、冬の保温効果はどれくらいありますか?
- A
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屋上緑化の土壌による保温効果は、期待できないと考えるのが妥当です。土壌の熱抵抗値は水分量の変化によって大きくかわるためです。
土壌が乾燥すると熱抵抗値は大きくなり、保温効果は高まります。逆に土壌の水分量が多くなれば熱抵抗値は小さくなり、熱を伝えやすくなります。
このように土壌による保温効果は大きく変動するので、断熱材のように数値化するのは困難といえます。
- Q
日陰や雨のあたらない屋根の緑化には、どのような方法がありますか?
- A
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日かげ部は、耐陰性の植物を選定して植栽するとよいと思われますが、生育はあまり期待できないと考えた方がよいでしょう。
雨のあたらない屋根も同様で、生育は期待できませんが、自動灌水装置などでカバーする方法もあります。乾燥に強い植物を植栽するとよいでしょう。
- Q
勾配屋根も緑化できますか?
- A
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勾配屋根では、土壌の流出が懸念されます。土壌の流出が続くと植物の生育にも影響していきます。したがって、勾配屋根を緑化する場合は、後々のメンテナンスが十分に出来る状態にしておく必要があります。実施する場合は、下記項目が必須と考えます。
対応可能な仕様についてはご相談ください。- 屋根に上がる設備の設置
- メンテナンス通路の設置
- 灌水装置の設置
- 3寸以下の勾配(足場が無くても人が歩ける程度)
- 土壌のズレ防止対策
- Q
防水層の上にコンクリートが打設されていれば、耐根層は必要ないのでは?
- A
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防水保護コンクリートには、伸縮目地が3mおきに設置されており、また、経年によりひび割れが発生したりすることがあり、厳密な耐根機能は有してないと考えられます。
当社では長期的に防水層を植物根から守る為に、ルートガードなどのような防水連続一体型、ラップ貼付タイプの耐根層が最適と考えています。
しかもFDフィルムとの併用により二重耐根を行い、万全を期すようにしています。
- Q
最小限のコストで施工するために、気をつけるべきことは何ですか?
- A
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何のために屋上緑化をするか、その目的に沿う仕様を選択し、必要ないものに費用をさかないことが大切です。また、コストに関しては、経年後も視野に入れたライフサイクルコストからも考えることができます。
ライフサイクルコストの考え方については以下に示します。ライフサイクルコストの考え方
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省エネ
屋上緑化には省エネによる費用軽減効果もあります。建物を緑で覆うことで得られる断熱効果は、建物全体の温度上昇を抑えます。また、建物を緑で覆うことにより、熱と紫外線から建物を守り、管理型緑化の場合、建物のライフサイクルコストに対する効果も期待できます。
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防水層の耐久性
屋上緑化施工後に防水層の改修をすることは非常に難しく、防水層の上にある樹木などの植物から大量の土壌、見切り材まで、すべての設備を撤去しなければなりません。この作業には費用もかかるうえ、廃材なども発生します。そこで、防水層改修までの期間が長い、つまり、耐久性のある防水層を選ぶことが、ライフサイクルコストの軽減につながります。
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メンテナンス
屋上緑化のメンテナンスには、どんな屋上緑化でも必ず必要な項目と植える植物により変化する項目の2種類があります。たとえば、省管理型と管理型の屋上緑化で比べると、メンテナンス費用には3~5倍もの開きが出ます。メンテナンス費用はトータルのライフサイクルコストに影響するので、屋上緑化を行う際は、どこまでメンテナンス費用にあてられるか、という観点から緑化タイプや植える植物を考えることになります。
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